終着点はブラックホール? ―100億年の宇宙の旅―本学 西山正吾准教授を中心とする研究チームの研究成果について紹介します。

 本学教科内容学域(理数・生活科学部門)の西山正吾 准教授を中心とする大同大学、和歌山工業高等専門学校、愛知教育大学、東北大学、国立天文台などの研究者による研究チームが天の川銀河の中心にある巨大ブラックホールを周回する恒星を、すばる望遠鏡の補償光学と近赤外線装置を用いて観測した結果、この恒星の年齢は100億歳以上であり、天の川銀河の近くにあった矮小銀河で生まれた可能性が高いことが分かりました。

 銀河中心の巨大ブラックホールの近傍にある恒星が、天の川銀河の外で生まれた可能性を初めて観測的に明らかにした研究成果です。

 本研究成果は、「日本学士院紀要」の欧文報告「Proceedings of the Japan Academy, Ser. B, Physical and Biological Sciences」オンライン版に掲載されました。

(https://www.jstage.jst.go.jp/article/pjab/advpub/0/advpub_pjab.100.007/_article)

 私たちが住む天の川銀河の中心には、太陽の400万倍の質量を持つ巨大ブラックホール「いて座A*(エースター)」が存在します。その存在はブラックホールを周回する恒星たちの運動によって明らかとなり、このことを解明した研究は2020年度のノーベル物理学賞に輝きました。ところが、巨大ブラックホールの近傍では強い重力のために恒星の形成が困難であると考えられており、これらの恒星の素性に注目が集まっています。

 研究チームは、いて座A*から0.3秒角離れたところにある「S0-6」という恒星に着目しました。8年間の観測でS0-6の運動を調べ、S0-6が3次元的にいて座A*のすぐ近くにあることを明らかにしました。さらにS0-6本体を調べることで、この恒星は生まれてから100億年以上経っていること、組成が小マゼラン雲やいて座矮小銀河といった天の川銀河の小さな伴銀河の恒星とよく似ていることも分かりました。つまりS0-6の生まれ故郷は、過去に天の川銀河を周回していた小さな伴銀河である可能性が高いのです。

 研究チームは、すばる望遠鏡の視力をより良くするための装置を開発し、2024年にはその装置でS0-6の特徴をより詳しく調べ、さらにいて座A*の近くにある他の恒星の起源も調べる予定です。
 西山准教授は、「S0-6は本当に天の川銀河の外で生まれたのか。仲間はいるのか、それとも一人旅だったのか。さらなる調査で、巨大ブラックホールの近くにある恒星の謎を解き明かしたいと思います」と展望を語ります。

天の川銀河の中心領域。すばる望遠鏡の補償光学装置AO188と近赤外線分光撮像装置IRCSで撮影された。約3秒角四方の視野内に沢山の星が写っている。本研究の対象となった星「S0-6」(青丸)は、銀河中心の巨大ブラックホール(いて座A*、緑の丸の位置)から約0.3秒角の位置にある。
(クレジット:国立天文台/宮城教育大学)

論文情報:Nishiyama et al. “Origin of an Orbiting Star around the Galactic Supermassive Black Hole”, in Proceedings of the Japan Academy, Ser. B, Physical and Biological Sciences, DOI: 10.2183/pjab.100.007

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