学長メッセージ
Message from the President
令和2年度 学位記授与式 餞の言葉
本日お元気に学位記授与式を迎えられましたことに、心から祝意を表します。
最終学年のこの1年は、新型ウイルスの影響により、通常には程遠い修学環境となりましたことを残念に思っております。「学校は児童、生徒が存在して初めて学校になり、そうでない場合はただの校舎であるに過ぎない」と言われますが、みなさんが思い描いたことが実現できなかったであろうことは、やむを得ないこととは言え、本当に残念です。
1年前の今頃、学校の一斉休校により甚大な影響がありました。このことは、学校がただ単に学習する場ではなく、保育機能により保護者の就労を支え、子どもたちを様々な危険から保護し、給食による食の保証の場であると共に関連産業を支え、・・・と、実に多くの役割を果たしていることが明確に示されました。学校は地域と一体化し、なくてはならない存在であり、教師は非常にやりがいのある仕事であります。来月から教壇に立つ皆さん、どうか誇りをもって教師という仕事に精励してください。
さて、本学で正式には卒業式と言わず学位記授与式とすることには理由があります。今から半世紀前、本学草創期の学長・林竹二先生のご教示によるものです。林学長は、全国初の合同研究室設置をはじめ多くの改革に着手され、本学独自の強固な基礎を築きました。
先生は「本学では卒業という語は使わない。教師は生涯学び続けなければならない」とおっしゃいました。すなわち、大学で必要な単位をそろえ免許を取得したのみで「教えることの資格をすべて備えた」と思うのは誤りであり、常に研鑽を積み、より深い自己省察を重ね、生涯努力を重ね、学び続けることを忘れてはならないという意味で、卒業ではないということであります。本学の長い歴史の中で大切にしてきた深い教育理念を端的に表すものです。
そして、こうも言われました。「新しく大学を出たばかりの教師が、自分は教師だから教える資格があるのだというような、思い上がった気持ちを持たないようにだけはしておかなければならない」・・・・「多くの教師が、子どもたちひとりひとりに目を向けること無しに、自分の授業の腕前だけを上げようとしている。授業の技術を問題にするよりも前に、教師は『子どもたちの魂の世話』に取り組むべきだ。」
厳しい示唆ではありますが、教育の奥深さと限りない重みに思いをいたすとき納得できるものであり、またそれゆえ高みに向かって歩み続ける、とてもやりがいのある仕事と言えるのではないでしょうか。
東日本大震災から10年が過ぎました。この間、多くの人が耐えがたい思い、変わらない悲しみ、激しい後悔、自身の生についての虚無感などの苦しみに必死で耐えてきました。その深さは想像すらできないものであります。そして10年という時間を感じ始めたとき、それを初期化するかのような大きな地震がまた先月発生しました。自然は実に大きく、人智の及ぶものではないと痛感いたします。いつどのようなことが起きても不思議ではないのです。
宮城県では10年前、石巻市立大川小学校で津波により多くの犠牲があり、それに関する司法の判断も示されたことから、宮城教育大学で学んだ者は、常に大川小学校を心に留め、「子どもたちの命を守ることが教師の最も重要な使命である」との強い信念をもって職務に当たってください。
さて、教師は本当に魅力的な仕事であり、時に困難なことがあっても、子どもによって救われることがたくさんあります。
私がかつて教授だったころ、研究室に、どんよりとした目をして授業も欠席が多く、まさにぎりぎりで卒業した男子学生がおりました。彼は何とか小学校教師になったのですが、数年後大学に来た時、別人かと思うほど様変わりしていました。目はキラキラと輝き、「子どもたちが本当にかわいいんです!」とまくしたて、まさに水を得た魚のようだったことが忘れられません。私はそれ以来、人間の可能性とはわからない、と確信するようになりました。
仕事は人間を作り、本人さえ気づかない可能性を引き出すことがあります。皆さんがそれぞれの道において「自分」を生き、自らが主人公たる人生を笑顔で送ることができるよう、心より祈っています。
令和3年3月24日
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